東京地方裁判所 平成12年(ワ)4168号 判決
原告 株式会社東京管理
右代表者代表取締役 徳原栄輔
右訴訟代理人弁護士 二神俊昭
被告 矢島昇司
主文
一 被告は、原告に対し、被告を原告、阿部守男を被告とする東京地方裁判所平成五年(ワ)第三二五四号土地建物所有権移転登記抹消登記請求事件につき同裁判所が同年五月二五日言い渡した判決による別紙物件目録記載の土地に関する別紙登記目録一記載の登記の抹消登記手続請求権を有しないことを確認する。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
一 原告は、主文同旨の裁判を求め、請求原因として以下のとおり述べた。
1 原告は、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を所有している。
2 本件土地には、別紙登記目録記載一及び二の各登記が存在する。
3 (一)被告は、平成五年二月二四日、阿部守男に対し、別紙登記目録記載一の登記(以下「本件登記」という。)の抹消登記手続を求める訴訟(東京地方裁判所平成五年(ワ)第三二五四号土地建物所有権移転登記抹消登記請求事件。以下「別件訴訟」という。)を同裁判所に提起した。
(二)東京地方裁判所は、平成五年三月八日、本件土地につき、別件訴訟の提起を原因とする本件登記の抹消予告登記を嘱託し、同月一一日、別紙登記目録記載二の登記(以下「本件予告登記」という。)が経由された。
4 (一)別件訴訟においては、平成五年五月二五日、被告(別件訴訟原告)勝訴の判決(以下「別件判決」という。)が言い渡され、その後、別件判決は確定した。
(二)被告は、右確定後、明示又は黙示的に、別件判決に基づく本件登記の抹消登記請求権を放棄する旨の意思表示をした。
5 (一)原告は、本件土地の所有権を取得した後、金融機関に対し、本件土地を担保とする融資を申し込んだが、本件土地に本件予告登記が経由され、抹消されずに残存しているため、これを理由に融資を受けることができなかった。
(二)本件予告登記を抹消するためには被告が本件登記の抹消登記請求権を放棄したことを証する書面が必要であるから(不動産登記法一四五条二項)、原告は、被告が本件登記の抹消登記請求権を有しないことの確認判決を取得する必要がある。
二 被告は、公示送達による呼出しを受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない。
三1 証拠(甲一ないし四)及び弁論の全趣旨によれば、請求原因1、2、3(一)及び(二)並びに4(一)の事実が認められる。
2 そこで、請求原因4(二)(放棄の意思表示)について判断する。
(一)証拠(甲一ないし四)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)被告は、昭和五一年一二月六日、本件土地を相続し、その後、平成三年一一月五日までの間に、本件土地について、ダイヤモンド信用保証株式会社等を権利者として、時価を大幅に上回る抵当権(被担保債権総額約七億円)、根抵当権(極度額総額約一四億五〇〇〇万円)及び賃借権を設定し、その旨の登記(一部仮登記)を経由した。
(2)被告は、本件土地につき、平成三年一一月二九日売買を原因として、阿部に対する本件登記を経由した。
(3)国は、平成五年一月二一日、阿部に対する国税の滞納処分として本件土地を差し押さえ、同月二七日、その旨の登記を経由した。
(4)被告は、右差押え直後の平成五年二月二四日、本件登記が被告に無断で経由されたものであると主張して、弁護士に委任して、阿部に対し、本件登記の抹消登記手続を求める別件訴訟を東京地方裁判所に提起した。
阿部は、公示送達による呼出しを受けたが、別件訴訟の口頭弁論期日に出頭せず、裁判所は、平成五年五月二五日、被告(別件訴訟原告)の請求を認容し、阿部に対して本件登記の抹消登記手続を命じる別件判決を言い渡した。
別件判決はその後確定したが、被告は、本件登記の抹消登記手続を行わず、滞納処分に対する異議も申し立てなかった。
(5)ダイヤモンド信用保証は、本件土地を目的とする抵当権の実行としての競売を申し立て、平成八年六月一七日、競売開始決定がされた。被告は、債務者として右開始決定の送達を受けたが(民事執行法一八八条、四五条二項)、ダイヤモンド信用保証に対して何ら異議を述べず、競売開始決定の効力を争うこともしなかった。
(6)原告は、平成一〇年九月二九日競売による売却により本件土地を取得した。なお、右競売の際、配当等を受けるべき債権の額が、売却代金額を大幅に上回っていたため、剰余金は生じなかった。
(7)原告は、平成一二年三月一日、被告に対し、被告が本件登記の抹消登記手続請求権を放棄したことの確認を求める本件訴訟を提起したが、被告は、住民票記載の住所地に居住せず、別件訴訟を委任した弁護士にも居住先を知らせておらず、現在に至るまで行方不明となっている。
(二)右認定事実によれば、被告は、弁護士に委任して別件訴訟を提起し、勝訴判決を得たにもかかわらず、判決確定後も約七年間にわたり、都内に所在する面積六六一・二四平方メートルの土地という重要な財産について、無断で経由されたと主張する本件登記の抹消登記手続を行わず、本件土地についての競売開始決定の送達を受け、近く本件土地が競売され、新たな利害関係人が登場し、被告の所有名義の回復が困難になる可能性(本件土地が競売された場合、被告が本件登記を抹消するためには、不動産登記法一四六条一項により、競落人の承諾書又は同人に対抗することを得べき裁判の謄本を添付することが必要となる。)があることを知っても、何ら異議を述べず、その後も、現在に至るまで、自己の所有名義を回復するための手続を何ら行おうとしないまま、行方不明となっているものである。以上の経緯によれば、被告は、長年にわたり別件判決に基づいて本件登記の抹消登記手続を実行しようとしたことがないことが明らかである。
このことに加え、競売開始決定の時点においては、仮に、被告が、ダイヤモンド信用保証に対して第三者異議訴訟等を提起し、本件登記の抹消登記手続を行ったとしても、ダイヤモンド信用保証の抵当権は、阿部に対する本件登記以前に、被告が自ら設定したものであるから、本件登記の抹消によりその効力が左右されることはなく、結局、被告は、ダイヤモンド信用保証が、被告を所有者として、再度本件土地についての競売申立てをすることを阻止することはできず、しかも、その場合には、本件土地には既に被告自らがその価値を大幅に上回る債権を担保するための抵当権及び根抵当権を設定していたから、被告が剰余金の交付を受けることは期待できないなど、被告には、別件判決に基づく本件登記の抹消登記手続を行う実益がなかったことがうかがわれることをも考慮すれば、被告は、別件判決確定後本件訴訟が提起される前までのいずれかの時点において、黙示的に、別件判決に基づく本件登記の抹消登記手続請求権を放棄する意思表示をしたものと推認するのが相当である。
(三)したがって、請求原因4(二)の事実は認められる。
3(一)弁論の全趣旨によれば、請求原因5(一)の事実が認められる。
(二)そこで、右事実を前提として、請求原因5(二)(本件確認請求訴訟の訴えの利益)について検討する。
不動産登記法は、予告登記の抹消方法としては、一四五条一項又は三項による方法のほか、「第三条ニ掲ゲタル訴ニ係ル確定判決、和解、調停其他確定判決ト同一ノ効力ヲ有スルモノニ依リテ確定シタル登記ノ抹消又ハ回復ヲ請求スル権利ヲ抛棄シタルコトヲ証スル書面」を裁判所書記官に対して提出し、裁判所書記官が予告登記の抹消を職権で嘱託する方法(一四五条二項)を定めているところ、「権利ヲ抛棄シタルコトヲ証スル書面」には、その文言上、登記の抹消又は回復を請求する権利をその権利者が放棄したことを内容とする権利者作成の書面のほか、当該不動産の所有名義人が、登記の抹消又は回復を請求する権利を有することが確定された者に対し、右権利を有しないことの確認を求め、この者が右権利を放棄したことがその理由中で認定された右権利不存在確認請求の勝訴確定判決も含まれると解すべきである。
本件訴訟は、本件土地の所有名義人である原告が、被告に対し、別件判決に基づき確定された本件登記の抹消登記手続請求権を有しないことの確認を求めたものであり、被告は、前記認定のとおり右請求権を放棄したことが認められるから、右理由に基づき本件訴訟において原告が勝訴する判決が確定すれば、その判決は、不動産登記法一四五条二項にいう「権利ヲ抛棄シタルコトヲ証スル書面」に当たり、裁判所書記官は、原告からその提出を受けることにより、本件予告登記の抹消を嘱託することができると解すべきである。
したがって、原告には、本件確認請求訴訟を提起することについて、訴えの利益がある。
四 以上によれば、原告の請求は理由があるから、これを認容し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 綿引万里子 裁判官 生野考司 裁判官 山田麻代)
別紙 物件目録<省略>
別紙 登記目録<省略>